生意気を持て余しているので

時間と生意気を持て余した女子大生の雑記ブログ。一番新しいものを除き、お気に入りの記事順に時系列バラバラで並べ替えてあります。

私の失恋を誰か聞いて欲しい。

 

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国境の長いトンネルを抜けるとそこは、スクランブル交差点であった。

 

 

 

 

 

というのは冗談で。まぁ、少なくとも雪国ではなかった。間違いなく。

私はまた、いつものように道玄坂にいた。

 

 

最近、失恋した。

私が彼氏だと思っていた男はどうやら彼氏ではなかったらしい。

別れようとも言われていない。

終わってみれば私たちはそのレベル、その程度の関係だったが、

私はきちんと、ちゃんと。病める時も、健やかなる時も。

彼を、愛していた。

21歳の女子大生が、「愛していた」だなんて、生意気が過ぎると思う。

でもこれ以上の表現ができないのだ。

宇多田ヒカルは「愛しているよ」より「大好き」の方が君らしいんじゃない?と言うが、私は間違いなく彼を「愛して」いた。

ピシッと決めたスーツの下に、ラクダ色のダッサい肌着とステテコを履いてるのを見たってその後普通に愛し合ったし、

ピロートークでプラットフォーム理論を語られたって愛おしいという感情しか湧いてこなかった。軽くイっちゃっている。

ステテコだよ?リアルに見たら笑うぜ?

 

好きな男は他にもたくさんいたが、愛していた男は彼だけだった。

愛って、怖い。

しかし、私の愛は、時に哀でもあった。

 

会う頻度は二週間に一度。

気づいたらたまにしか会うことできなくなって、口約束は当たり前。

それでもいいから。

…いや、よくねーよ。私はHYのようにいい女になんかなれない。

なりたくなんかなかった。

 

でも、

好きだった。

 

そうだ、「好き」という気持ちは時に「愛」に包括される。

 

男は会えないほど気持ちが消えるというが、女は会えないほど気持ちが高ぶる。

それはその通りで、こちらの気持ちがどんどん高まっていくだけの恋愛だった。

 

そして、出会って半年ほど経ったある春の夜、決定的な事件が起きてしまった。

 

端的に言うと、彼が私の友達に手を出したのだ。

 

彼が手を出した私の友達は成人したばかりであった。

 

世が世なら刺しているし、友の年齢が年齢なら彼は山口メンバー入り確定である。

泣きながら「許されるのならTOKIOに戻りたい」と言ったところで

TOKIOは、TOKYOは、東京は。お前を許さない。

HYも、 DASH村も、米も、東北だってお前を許さない。

もはやメンバーはメンバーではなくなったし亡くなった。

危険タックルはお前がくらうべきだった。

 

とにかく、寂しかった。

虚しかった。

誰かに会いたかった。

ここは東京。人はゴミの数よりも多い。掃いて捨てるほどいるのだ。

 

ゴミ収集車と言われたっていい。私はまた、新しい人と出会うべく、道玄坂に足を伸ばした。

 

 

会ってすぐに、「あぁ、こいつモテねぇな」と思った。

 

まず、歩くスピードが早い。早すぎる。

 

マークシティ裏の激坂を颯爽と歩く姿がカッコいいとでも思っているのだろうか。

風、強すぎ。付いていけない。

 

私は彼の後ろでセットしてある前髪が吹き飛ばされるのを抑えるのに必死だった。

『髪の毛が後退しているのではない。私が前進しているのである。』というハゲの教祖、孫正義大先生の革命的名言を頭に浮かべ、思わず口元がほころんでしまう。

この強風、いしだ壱成なら間違いなく泣いている。

 

彼はそんな私に気づくこともなく、振り返らずに坂を登りきり、店に入った。

 

 

 不安な気持ちを抱えたまま私も彼に続いた。

 

 「やけに落ち着いているよね」

席について早々そう言われた。

これ、2018年の私の流行語大賞である。おじさん、私をみてこれしか言わない。ウケる。ワロタ。

「そんだけ落ち着いているってさ、大人慣れしているか、俺に全く興味ないかのどっちかだよね」

ピンポーーーーーン!!!!

坂の時点で彼に対する興味はゼロだったし、向かい合ってから気づいたヤニまみれの出っ歯は清潔感ゼロだった。

軽く写真詐欺だろ、これ。

 

「君はさ、年上の何が好きなの、三つ挙げて見てよ。」

酒も料理も来ないうちから捲し立てられる。

あぁ、モテない。しんど。

 

何かで「バツが付いていない35歳以上の男は、どこかしら絶対に欠陥がある」と読んだが、ここまでわかりやすく欠陥まみれな男も久しぶりだった。

 

導入を知らないのかお前は。

物語には、導入が必要だ。

 

だから結婚できないんだよ、お前。

 

若干呆れながらも、作り笑いを浮かべて

「甘えさせてくれるところ、依存しないところ、包容力」ですかね。という。

 

本当だった。

別に私はおっさんの金なんかに興味などない。

パパ活してそうと言われるのも私的流行語大賞にノミネートしかけたが、

事実、女を売ったことはこれまで一度もなかった。

 

ただ単に性的対象が一回り以上年上というだけだ。

 

「でもさ、それだけ?もっと、なんか、あるでしょ。本当の事言ってよ。表面的な事言っても意味ないじゃん」 

 

あぁ、めんどくせぇ。

 

家庭的トラウマや、今や港区おじさんとなってしまった実の父の事を話せば、私が一回り以上年上しか愛せない所以は一発で理解されるだろう。

でも、出会ってそこそこしか立っていない男にそこまで言いたくなかった。

 

 晒したくなかった。

 

私の、一番弱く、脆い部分なのだ、そこは。

 

「表面的じゃないですよ。全部、本当の事を言っています。」

そう、嘘は何一つ言っていない。

 

しかし、その男はどうやら私に「経済力」この一言を言わせたいようだった。

ほら、デート代とか負担してくれるでしょ?美味しいご飯も食べられるじゃない。

わかったように誘導尋問していく彼をみて、頭の中のギアを入れる。

もうこの男とどうにかならないことは第一印象で決まっていた。

あとは穏便に事を済ませてさっさと帰るだけ。

出会ってまだ10分も経っていなかったが、今すぐここから逃げ出したかった。

 

息を吸う。言葉とともに吐く。

「あなたは私に"お金"って言わせたいんだろうけど、私本当に、そう言うの興味ないんで。パパ活とかもやってないし。」

男は怯まない。

「いやいやさ、俺には、本当の事を言ってよ。もっとわかりやすく言って。どうしてそんな難しい言い回しを使うの?大人っぽく見せたい?全部嘘っぽく聞こえるよ。」

 

どこが難しいのかさっぱりわからなかった。

 

何かの本で、20歳を超えたあたりから人の性格なんて簡単に変わらないと読んだ。

つまり、20歳も、35歳も、60歳も。本質的には同じなのだ。

話が合わないのは大人とか大人じゃないとかそう言う問題ではない。

単純に、性格か経験値の問題である。

 

その程度のこともわかっていない。

大したことないな、こいつ。

 

20歳の女子大生は全員同じだと思っている典型的なパパ活おじさんタイプだ。

金を払えばヤレると思っている。

米山知事の再来。

 

『米山知事は主に渋谷区道玄坂に生息している動物で、自分より地位も名誉も低いメスを主食とする。

しかしながら時として、己の頭の弱さがゆえに逆にメスに捕食されてしまう哀れな動物である。  』

 

頭の中でナショナルジオグラフィックのナレーターが語る。

そう、ここは、ナショナルジオシブヤク。

弱肉強食の世界だ。

 

ゆっくり目を閉じて、さっきよりも深く息を吸う。目を開ける。吐く。

「金目当てなら、私、あなたと会ってない(笑)」

失笑しながら、言う。

 

相手の固まった表情を見て自分の牙が刺さった事を確認した。ガオー。

 

年収800万程度ででかい顔しやがって。

頭の中で伊東四朗がスッキリボタンを押す。

スッキリ!スッキリ!

 

「ねぇ、君、」セブンスターの煙を不味そうに吸い込んで彼は言った。

「君、今まで、ずっとこうやってきたの?」

 

何も言わずに彼を見つめる。

彼も、私を見つめる。

ふっと風向きが変わったのはわかった。

 

「なんて言うかさ、痛々しいんだよね、君。すごく背伸びしている感じが。元彼に浮気されたんだっけ?浮気っていうかさ、それ、そもそも付き合ってたの?相手は最初っから最後まで君のこと、手軽な女の子だと思っていたと思うし、いい風に食い物にされただけだよ。そして、君がそういう風な君である限り、この先も同じような男としか出会えない。」

 

一体何を言い始めたんだこいつは。と思った。

 

「でも、将来の話とか、していたんです。だから私、彼が私の最後でもいいと思った。」

そうだった。私が彼にのめり込んだのは、彼が私と将来の話をし始めたあたりからだった。

 

目の前の男は言った。

「男はさ、なんとでも言うわけ。君と寝られるのならば、なんとでも言うんだよ。将来の話なんて典型的だよね。ねぇ君大丈夫?もしかして恋愛経験めちゃくちゃ少ないんじゃないの?」

 

やめてよ。

 

「すっごい騙しやすかったと思う。ちょっとそれっぽいこと言ったら、丸ごと信じてさ。ホイホイ毎回会ってくれて、自分のこと好きだとかも言ってくれて。その男は、君を消費したんだね。君はもう消費しきったから、次の子にいっただけ。」

 

一刻も早く、この場から逃げ出したかった。

正直、泣きそうだった。失恋の傷は癒えてなかったのに、容赦無く牙をたてられる。

 

最後のプライドで涙は流していなかったけれど、あともう一口噛まれたら、出血多量で死ぬと思った。

 

「じゃあ、これからどうしたらいいのか教えてください。そういう男とこの先出会わないように、どうすればいいか教えてください。」

 

わかるんでしょ、そんだけ言うなら。あなたなら。

 

「わかるよ。でもタダで教えるわけないやん」

 

じゃあ、どうしたらいいの。

 

「このあと俺の家おいで。その後じっくり教えてあげる。」

 

 

 

 

 

呆れた。

 

 

 

 

 

 

結局お前もそれかよ。

 

さっきまで偉そうに色々言っていたのが台無しである。

いや、むしろオチがしっかりしていて逆に気持ちがよかった。山田くん、彼に座布団1枚差し上げて。いや、10枚あげちゃって。山田くん、早く。

 

途中まで怒涛の正論モンスターだったのに、最後の最後で体を求める性的モンスターに進化してがっかりした。本当に、がっかりした。

正直、久しぶりであった。

私に真正面からマイナスの牙で噛み付いてきた男は。

そして、私が揺らいだのは。

 

ドっと力が抜けた。

残ったのは、こいつもそれかと言う安心感と、途中までぶちまけられた正論に対する虚無感。

多分、途中までは、彼は絶対に、正しかった。

悔しいけれど、正しかったのだ。

 

だから揺らいだ。

 

疲れていた。もう帰ろう。

 

もう十分。

 

相手がトイレに行っている間に鞄から千円札を出す。

机の上に置く。

 

さようなら。

あなたと会うことはもう二度とないでしょう。

 

 

荷物をまとめて一人、道玄坂を下った。

 

 

副都心線に乗り、新宿へ向かう。

彼と、いや、"元"彼との街。三丁目。

 

新宿に着いた途端、堰き止めていた感情が、思い出が、溢れ出した。

 

情けないほど、泣いた。

声を出して、泣いた。

 

うわぁ、好きだったなぁぁぁぁぁぁ

大好きだった。本当に、大好きだった。

ごめんやっぱり宇多田の言う通りだ。

私にはきっと「大好き」の方が似合う。

東京を歩く人々は足を止めない。

東京は、人は。私に無関心だ。

マザーテレサは、愛の反対は憎しみではなく無関心であると言っていた。

更新されたホーム画面

絶対に合わない日程

変わらない既読無視

絶対に終わらない新卒採用

 

こんな風に、終わるのなら。

話し合いも何もなくこんな風に、

ただ単に私だけが消費されて終わってしまうのならば。

どうせ、捨てられるのだったなら。

 

全て伝えてしまえばよかった。

 

どこが好きで、

どの言葉が何度も反芻するほどだったか。

どの夜が忘れられないのか。

価値観を壊された行動。

実はそれはあなたが初めてじゃなかったと言うこと。

本当は気づいていたこと。

好きだから、気づかないふりをしていたと言うこと。

どうせ何を言っても響かないのなら、何もかも伝えてしまえばよかった。

 

この先、

春が来るたびにあなたを思い出すのは明白だった。

あぁ、どうか、

幸せになってください。

それを願うくらいあなたのことを本気で好きだった女の子がいたこと、あなたは一生知らないでいてもいい。

春憂う人、春超える人、春敬う人。

どうか。

 

 

 

 

 

 

最悪で最高な春休みを、どうもありがとう。

春。

 

 

 

 

 

 

-私の失恋を誰か聞いて欲しい-

執筆 2018/5/20